2023.10.10
古文① 梨の花
そろそろ「にっこり」の季節です。「にっこり」は栃木県産の梨で,生産量の約90%を占めています。「新高」に「豊水」を高配してできた品種です。「日光」と「梨(り)」を足して,「にっこり」という名称になりました。
ところで,みなさんは「梨の花」をご覧になったことがありますか?未見の方はぜひ検索をしてみてください。私は生家の庭で可憐に咲いていた梨の花に,心惹かれたことを覚えています。
そんな梨の花ですが,古代では人の心を打たなかったようです。『枕草子』三十五段「木の花は」には以下のような記述があります。
「梨の花,すさまじきものにて[興ざめなものだとして],(中略)愛敬おくれたる人の顔など見ては[かわいげのない人の顔などを見ては],たとひに言ふも[たとえに引いて言うのにつけても],げに(略)」
ひどい言われようですね。しかし,清少納言は「唐土には限りなき物にて[中国ではこのうえないものとして]」と,中国では梨の花の評価が正反対なことを述べています。そして「たぐひあらじとおぼえたり[ほかに類があるまいと感じられる]」と,梨の花に対して肯定的な見方をしています。
私の推しの一人である紫式部もこのような歌を詠んでいます。
花といはば いづれかにほひ なしと見む 散りかふ色の ことならなくに
[桜も梨も同じ花という以上は,どちらが美しくない梨の花と見ようか。風に散り乱れる花の色は違っていないのだから] ※「なし」は「梨」と「無し」の掛詞
当時,よいものとされていなかった梨の花を好意的に受け止めたことは,清少納言と紫式部に漢籍の知識があったからで,それをほかの人にも知ってもらおうという気持ちの表れでしょう。
皆様も,ご自身の好きな花がありましたら,古文ではどのように扱われているのかを調べてみてはいかがでしょうか。
橋本
※ブログの筆者は近世文学にどっぷりなので,解釈に誤りがございましたら申し訳なく存じます。